科学論文の指導は楽しい
大山光晴 (千葉市立稲毛高等学校教頭)
先生方は科学論文や課題研究の指導をした経験がおありだろうか。文部科学省の調査によると、現在の高等学校の理科教育に関する課題の一つは『課題研究』の指導である。SSH指定校などの一部の学校を除くと、多くの高校では理科の各科目のIIで設定されている『課題研究』が、ほとんど実施されていない。日本学生科学賞への高校からの応募論文は、中学校からの出品数に比べると極めて少ないし、新たに設けられたJSECも参加論文数は伸び悩んでいる。現在の日本では、高等学校で研究をして科学論文を書くという環境が、昔も今も、あまり整っていないのである。小・中学校で自由研究に取り組んだ経験のある生徒がたくさんいるのだから、このことは非常に残念なことである。
科学論文の指導は、教員にとっても自分の枠からはみ出して科学に取り組むたいへん良い機会である。生徒の研究テーマを、自分の専門分野や教えてきた教科書の内容に限定する必要はまったくない。自分が知らないテーマを生徒が提案してきたら、一緒に勉強すれば良い。必要を感じたら一緒に専門家を探し、一緒に議論して新しい知識を得ればよいのである。 科学研究は、やっている高校生はもちろんのこと、指導する側も面白く、楽しいはずである。ところが、高等学校の課題研究の指導例などをみると、先生方がたいへん苦労されているのだが、研究のテーマや研究内容が、失礼ながらあまり面白くない。教科書や実験書そのままであったり、研究者のテーマそのものであったりして、実験や観察の手法などに生徒自身の工夫がなく、生徒の発見もあまり見当たらない。研究の面白さや楽しさが伝わってこないのである。
科学論文の指導で、生徒はいろいろなことを学ぶだろうが、教員が生徒に一番伝えるべきなのは、科学に向き合う姿勢ではないだろうか。「これは面白い!」と、常に自然現象に対する好奇心を抱いてその解明に打ち込む姿を、教員自身が示すことが大切なことなのである。
科学は楽しいし、科学論文の指導はもっと楽しい。夜中まで実験や論文のまとめに打ち込む生徒に付き合うのは確かにたいへんだし、生徒に自分の考えを否定されるのは腹の立つものであるが、教員を何年やっていたところで、知らないことは知らないし、わからないことはわからない。高校生の方が優れていることはたくさんある。教員にとっても、新しい発見や驚きがある。ぜひ、多くの先生方に科学論文の指導に取り組んでいただきたい。